生成AIで仕事は淘汰されるのか? ―― 経営と実務の双方で進む「仕事と作業の再編成」――

■はじめに:なぜアジトイがこのテーマを語るのか

生成AIの急速な発展により、多くの企業で「既存事業はこのままで持続するのか?」

という漠然とした不安が生まれています。一方で、議論の多くは「どの職種がAIに置き換わるのか」「仕事がなくなるのか」といった表層的な論点に留まりがちで、経営にとって本当に重要な問い――

• 事業価値はどこで生まれるのか

• 組織の役割はどこが再編されるのか

• どの人材が競争優位をつくるのか

――が十分に整理されていないケースも少なくありません。

アジトイは、広告・EC・メディア・テクノロジー領域において、経営層と実務の双方に並走する中で、生成AIは「仕事を奪う」のではなく「仕事と作業の関係を再編成している」という構造変化を強く実感してきました。以下では、この変化を整理します。

■本稿における「仕事」と「作業」の定義

本稿では、以下のように用語を定義します。

作業(Task)

• 手順化・標準化できる

• 入力と出力が明確

• 他者やAIによる代替が可能

• 効率化・自動化の対象になりやすい

例:情報収集、資料作成、実装、デザイン制作、チケット消化 など

仕事(Work)

• 目的・意図・判断を含む

• 文脈依存で再現性が低い

• 責任が紐づく

• 作業を束ね、成果に変える行為

例:要件定義、優先順位付け、構造設計、意思決定、調整・翻訳 など

仕事とは、複数の作業に意味を与え、成果に変換する行為であり、作業は仕事の一部にすぎません。

■1. 消えるのは「作業」であって、「仕事」ではない

生成AIが最も得意なのは、反復的・定型的な作業です。

• 情報収集・サマリー

• 初期リサーチ

• コードやコピーの下書き

• バナー案・テキスト案

• テストケースの生成

• ログ解析の一次分析

• 単純なバグ調査

AIが置き換えるのは、人がやる必要のない「作業」 であり、仕事(判断・構造化・意思決定)そのものではありません。経営側が「AIを導入したが、思ったほど生産性が上がらない」と感じる背景には、作業だけをAIに任せ、仕事の再設計が行われていないケースが多く見られます。

■2. 人が担う価値は「仕事(上流工程)」に集約していく

生成AIが苦手とするのは、文脈理解・判断・調整を含む仕事です。

• 顧客理解・インサイト抽出

• 市場や文化の文脈を踏まえた判断

• ステークホルダー調整(関係性・政治性)

• 曖昧な要件の構造化

• 優先度の判断

• 意思決定責任を引き受けること

これらは 事業の方向性を決める仕事(上流工程) であり、現時点ではAIによる代替は困難です。生成AIの普及は、仕事の重要性を下げるのではなく、むしろ可視化し、価値を高めています。

■3. 結論:淘汰ではなく「仕事と作業の再編成」が起きている

生成AIによる変化は、職種の消滅ではありません。

仕事と作業の分担が再編されている のが実態です。

【作業に依存した役割(AIに置き換わりやすい)】

• 作業量そのものが価値になっている

• 指示がなければ動けない

• チケット処理に留まった開発・SES

• パターン化されたアウトプットのみを担う役割

【仕事を担える役割(価値が高まる)】

• 目的や構造を言語化できる

• 要件定義・仕様整理を担える

• 文脈を読み、調整できる

• AIを使い、生産性を飛躍的に高められる

• ビジネス価値に基づいて提案できる

企業にとって重要なのは、

作業を担う人数ではなく、仕事を担える人材の密度です。

■4. 「仕事の価値」は見えにくい

仕事(要件定義・翻訳・構造化・調整・判断)は、成果物として可視化されにくく、誤解されやすい領域です。そのため今後は、「自分がどのような仕事を担っているのかを説明できる人材」が組織の中核を担うようになります。そして 「説明できる人材」を前提に、 仕事を評価・意思決定する“組織”が強くなります。

説明されない仕事の価値は、存在しないのと同じ扱いをされてしまう――ここがAI時代における大きな分岐点です。

■5. AI時代に価値を高めるための3つの視点(経営・実務共通)

① What(作業)ではなく Why(仕事の目的)から考える

意図を説明できる人材が、意思決定を前に進めます。

② 人とAIの役割分担を明確に設計する

• AI:調査、比較、下書き、単純作業

• 人:判断、説明、意思決定、調整

企業の生産性は、この設計で大きく変わります。

③ 専門性を「仕事として言語化」する

要件定義・構造化・翻訳といった仕事は、AI時代における重要な経営資産です。

特に技術・SES領域では、

「曖昧 → 言語化 → 実装」 の力が競争力を左右します。

■アジトイから経営層へのメッセージ

生成AIは、既存事業を破壊する脅威ではありません。事業価値がどこで生まれるのかを再定義する機会です。

アジトイは、

• AI時代の事業構造の整理

• 組織における仕事と作業の再設計

• 上流工程(要件定義・構造化)の強化

• マーケティングとテクノロジーの接続

を、経営層・実務双方と並走しながら支援しています。作業の価値が急速に下がる時代だからこそ、仕事(意味づけ・判断・構造化)を担える組織が、企業の競争力を決める。

この変化に向き合う経営者の皆さまとともに、次の成長の形を共創していきたいと考えています。